心の散歩道

~はじめに~

少し時間があるとき読んでいただければ、うれしいです。
私達は、気が付いていないことや出来ていない事ばかりですが、少しでも優しい気持ちの持ち主が多い社会になれば素敵ですよね。
(時間の無い方は、第二部の最後の無上意だけでも読んでください。)

心意気

    たった一度の人生を
    世間の顔色をうかがって
    やりたいこともやらないで
    死んでいく身の口惜しさ
    どうせもらった命なら
    ひと花咲かせて散っていく
    桜の花のいさぎよさ
    一度散っても翌年に
    見事に咲いて満開の
    花の命の素晴らしさ
    ひと花どころか百花も
    咲いて咲いて咲きまくる
    上で見ている神様よ
    私の見事な生き様を
    隅から隅までご覧あれ

    (カナオカ機材 七里様から教えていただきました。)

打つ手は無限

 すばらしい名画よりも
 とてもすてきな宝石よりも
 もっともっと大切なものを
 私は持っている
 どんな時でも
 どんな苦しい場合でも
 愚痴を言わない
 参ったと泣き言を言わない
 何か方法はないだろうか
 何か方法はあるはずだ
 周囲を見回してみよう
 いろんな角度から眺めてみよう
 人の知恵も借りてみよう
 必ずなんとかなるものである
 なぜなら
 打つ手は常に無限であるからだ

 (カナオカ機材 七里様から教えていただきました。)

講演録「創業に対する心構えと成功のポイント」 第一部

司会  株式会社タニサケの松岡浩会長を紹介します。
何回もご講演をお聴きになった方がいらっしゃるかもしれませんが、松岡会長は講演で日本全国を飛び回っていらっしゃる方で、お話を聴くと、ひじょうに元気になると皆さんが幾度もおっしゃいます。では、これから約1時間半、創業に対する心構えと、成功のポイントについてお話していただきます。
松岡会長、よろしくお願い致します。

 『創業に対する心構えと成功のポイント』

 今、司会の方が演題の紹介で難しいことを言われましたが、私がここに来たのは、何か少しでも皆さんに、お役に立つことを、お話したいと思ったからです。
 私がやってきたこと、特に今日は皆さんが、これから自分で企業をつくるということですので、具体的に明日からどうしたら成功出来るかということをお話させていただきます。

[笑い話]
 最初は硬くなりましたので、笑っていただきます。
 80歳のおばあさんが突然水泳を習うと言い出しました。「なぜ今頃、おばあさん水泳を習うんですか?」と聞きますと、そのおばあさんの答えは「あの世に行くときに、三途の川を渡らなくてはいけない。三途の川は、船で渡ることになっているが、その船賃が相当高いと聞いたので、それで水泳を習っているんです」ということでした。そのことを伝え聞いた、その家のお嫁さんが、水泳の指導員にこう言ったそうです。「この、おばあさんに、ターンだけは教えないでください…」。(笑)
 これから創業する人は、明るくないといけないですよ。ムスッとしていたら、誰も話してくれませんから、楽しいことがあったら笑うんです。笑うということが大切です。
 もう一つしましょう。青森で受けた川柳です。これで反応を試します。「寝室で いつでも見れる ネブタかな」。(大笑い)

[タニサケ]
 私どもの会社の社員数は38名です。社員28名、パート社員が9名。このパート社員のことを「さわやか社員」といいます。ネーミングがいいですね。そして顧問が1名。
 創業が昭和60年で、18年間、ずっと黒字経営で、成績でいうと、18勝0敗です。資本金は1億円で多いです。ただ売り上げが7億円と少ない。ところが経常利益はなんと、26%の1億8千万円です。これは1000社あれば、1社か2社あるか無いかという高収益なのです。 [会社の支配者はお客様]
 私は、社長を辞めて今は会長職ですが、セールスにも歩いております。創業にあたって大切なことは、物を売るということ、物を売って利益を得て自分の生活に当てるわけですから、そのあたりのお話をしたいと思います。
 セールスで、アポイント、面談の予約をアポイント、アポと言います。アポに始まって、胃の痛くなるような経過をふまえて、結果を出すのです。取引を成立させていくということで、いまだに新規訪問する時は緊張するわけです。
 なんといっても買う決定権はお客様が100%です。自分が0なのです。ところがややもすると、自分に30%、あるいは50%権利があるような話し方をするセールスマンがいます。間違ってはいけません。お客様が決定権100%ということを。
 セールスについて、先人の言葉の中にも、いいヒントがあります。江戸時代の経済学者に石田梅岩先生という方がみえまして、「実(まこと)の商人は、先も立ち我も立つことと思うことなり」とおっしゃっています。これを、縮めて「先も立ち、我も立つ」つまりお客様が立ち、そして結果、自分が立つということで、当社の社是(経営上の方針)になっています。先も立ち、我も立つ。お客様をまず立てよう、ということです。この石田梅岩先生が「商売人が店を開ける前に用意するものは、商品ではなく、笑顔である。明朗な心である」と。商人は笑顔でお客様を迎えなさい、ということです。
 そして、永平寺を建てた、あの道元禅師が、このようなことを言っています。「利行は一法なり。あまねく自他を利するなり」。まず他人を喜ばせなさい、と道元禅師も言っています。
 そして、商業界です。商業界とは商人の勉強の最高の場ですが、その商業界の教えの中で、「店はお客様のためにある」と言っています。
 この3つの共通する言葉は「お客様」。相手のことを思って、そこから商売が始まるわけです。会社の支配者は一般的に社長ということですが、でも、そうではないのです。会社の支配者はお客様です。お客様が総てということです。

[私のセールス]
 さて、それでは、私のセールスということでお伝えします。まず、訪問は大きな声で「毎度ありがとうございます」と言って入ります。あるいは、「おはようございます」あるいは「こんにちは」と言って入ります。
 身だしなみですが、私は極めて古典的ですが、上下揃いの背広にこうして名札を付けて、ネクタイを締めて行きます。そして、応接間に通していただきます。応接間では、私の場合、椅子に掛けないで、立って待っております。先方の社長が入ってみえます。その時に、私の立っている姿を見たときに、こいつはやるなと、思わない社長もいますが、これはやるなと思う社長もいるわけです。要は、取引の相手が聞いてくれる状態をつくることです。
 当社へ、よく社会福祉協議会の寄付集めで学校の先生のOBの人達が来られますが、その時、応接間へ私が入っていくとどのような格好をしているかというと、足を組んで、タバコをくわえて待っているのです。これがお金を寄付して欲しいと言ってきている人の姿なのです。この姿を見ただけで、とにかく早く帰って欲しいと思います。話を聞きたくありません。
 まず、立って待っている。これで、商談相手の方のコップ(心)が上を向きます。これから、この人から聞いてみたいと思います。
 足を組んで、タバコをくわえているようでは、コップ(心)をふさいだ状態です。商談相手の心が開いていないのです。「もう帰れ」という状態です。これでは、いい商談は出来ません。
 それからもう一つ、座った時に、足を組むのはもってのほか、椅子の後ろにもたれず、緊張感をもって、わずか20分間か30分間ですから、きちっとして聞くという姿勢が大切です。とにかくお願いに行くわけですから、そういうことに気を付けています。
 私どもの営業マンは、よく会議中にタバコを吸うので、「皆さん、よく煙草を吸うけど、お客様のところに行ったらどうするの」と聞きましたら、「お客様のところに行ったら、もちろん、煙草を吸ってもよいですかと聞いてから吸います」。「お客様はどう言うかな?」と言ったら、「どうぞ吸ってくださいと言います」。「いや、そう言えばそうだけど、当社へ来る仕入先が、煙草を吸ってもいいかと聞かれたら、いいですよと言うけど、この人早く帰ってもらえないかと思うよ」と言いました。要は、お願いに行くのに、わざわざ人の嫌がることをやっているのです。だから煙草を吸うことは、面談中、当社の営業マンはしません。余程リラックスして、お客様が一緒に吸おうと言われた時だけで、普段は煙草を吸いません。
 こういう、最初に訪問するときの姿勢が、お客様の受け入れる状態になっていくということです。

[信用]
 今度は、約束の大切さをお伝えします。約束イコール信用なんです。約束は1回果たせば、わずか1枚の紙の厚さほどの信用になるんです。10回約束ごとを果たすと10枚分たまるんです。100回続けて、約束を果たすと、「あいつは信用できる」ということになる。ところが100回めに約束を破ると、この信用の100が一気に0になります。
 約束の中で代表的なのは、時間の約束です。アポイントを取って、お願いに行くのに、どうするかというと、5分前に必ず行く。5分前に行って待っていて、そして約束の時間に入る。商談でお客様と返事や連絡の約束をします。その時、忘れないように必ずメモをする。
 サンプルを送って欲しいと言われれば、絶好のチャンスですね。サンプルを送る時に私の場合は、そのお店を出たら、携帯電話で「サンプルを、このお客様に送ってください」と当社の担当者に連絡をします。翌日に届きます。「打てば響く」ような行動がお客様の信用を得ます。忘れた頃、一週間過ぎてからサンプルを送っては上手くいきません。スピード対応でもお客様に感動を呼ぶことができるのです。そのへんの積み重ねが信用の積み上げということになります。
 約束を守っていくということで、具体的にこんなことがありました。京都での商談でありますが、その前日に私は、助手席に乗っていて車に衝突されるという交通事故に会い、救急車で病院に担ぎ込まれて額(ひたい)を七針縫いました。商談を控えておりましたので、どうしたかというと、これは行かねばという男の約束であると、私はそういうふうにいつも思うわけです。それで、包帯をグルグルと頭に巻いて若い社員に同行してもらい、新幹線に乗って京都まで商談に行きました。その私の姿を見た、お客様はどう言われたと思います?「こんな時はこなくてよいよ。お宅とはこれから取引します」他に何にも言われませんでした。姿を見ただけでこの人なら大丈夫だと思ったのでしょう。だから事故が起こったから行かないのではない。こんな時こそ絶好のチャンスと思い行動をします。
 また、東京都内をセールスで回っている時に、土砂降りの雨でタクシーも動かなくなりました。私は仕方がないので、約束の時間に間に合わせるために、その会社まで歩きました。横なぐりの風雨に、傘が飛んでいってしまうくらいでしたが、目的地に向かいました。着いたら、なんと革靴を脱いだら金魚が泳げるくらい水がいっぱいでした。上から下まで背広はベタベタ、ズクズク。受付でタオル3枚を借りて拭き、そして知らぬ顔をして、商談の場に行きました。お客様は言われました、「こんな雨だからあなたは来ないだろう、と思っていた」。そして、見れば、背広が濡れているのは分かりますから。「何で来たの?」「歩いてきました」。その後の商談は大成功でした。要は、約束を守りたいという気持ちを、必らず天は味方してくれるのです。これは暖簾(のれん:信用)になりました。
 信用ということで別の角度で申し上げますと、信用でいちばん大切なことは、相手を儲けさせるということです。もう一つは、約束を守るということ。そして、人に好かれること。「あいつはなんとなく憎めない奴やなー」とか、「可愛いなー」とか。この3つが大切だと故本田宗一郎さんは言っています。私もやはりその通りだと思って皆さんに披露をしました。

[咄家(はなしか)]
 セールスマンは、咄家でなければいけません。商品の歴史から、効果まで完全に頭の中に入れているだけではダメ、体の中に入れ込む。落語でいう真打ちが行けば売れます。前座が行けば、売れないこともある。プロのセールスは、商品の物語りを語るということです。

[名前を覚える]
 次に私が大切にしていることは、秘書の名前を覚えるということ。もちろん社長名、担当者名も覚えますが、アポイントを取りやすいのは、秘書の名前を覚えることです。例えば、「9月1日に、佐藤社長にお会いしたいのですが」と秘書の方に電話をする。その時、「秘書の伊藤幸子さんですか、社長にお会いしたいのですが」と言う。それで随分違うのです。フルネームで、ちょっとしたことで効果が出ます。
 倉庫番のおじさん、特に高齢のおじさんの人達の名前を覚えて、声を掛けると本当に喜ばれます。少々の在庫切れなんかは、これで通ってしまいます。出来れば、誕生日や趣味なんかを聞いて知っておくと、結構会話ができて、会社の中身が分かってくるということになります。

[自動車は遠くに]
 自動車に乗って得意先に売りにいくときにどうしたらよいのかというと、出来るだけ車は遠くに停めておくことです。近い所はお客様用です。セールスはお願いにいくのですから、出来るだけ遠くに停める。遠くに停めたから商談が成立するわけではありませんが、でも一年間やり続けたら、「そういえば、あのセールスは、いつも遠くに車を停めて商談にくるなあ」と感心されます。それが感動につながります。要は、いっぺんに感動を与えることはできません。コツコツとやりながら、自分が、お願いに行く姿勢を見せることです。そういうことを続けていくと、お客様が、次から次へと他のお客様を紹介してくれます。

[ヒントを貰ったら動く]
 ヒントを貰ったら動くということも大切です。例えば、創業の頃にうどん屋さんで食事をしている時、写真週刊誌のフライデーを何気なく見ていたら、ページの下の方に「面白い記事があったら、お知らせください」と書いてあったのです。しめたと思い、すぐに食事をして、会社に帰って、フライデーを発刊している講談社に、「池田町からゴキブリが消えたので、ぜひ取材に来てください」と電話をかけました。受ける方は唐突ですからびっくりします。一生懸命話したのですが分かってもらえず、「分からないですか。それでは明日行きます」と言って、当社が新聞で報道された資料を山ほど持って、東京の講談社に一人、乗り込んだのです。そして記者の人に会ってお話をしました。持参した新聞を見て、これは本物だと思ってくれたのです。
 それで結果どうなったかというと、これがフライデーの記事なんです(実際の記事を見せて)。当時これだけのものをフライデーの広告に出すと400万円です。これが無料で載りました。広告は価値が少ない。記事は10倍以上の価値があります。どういうことが書いてあるかというと、「ゴキブリ撲滅へ、町をあげて、だんご作戦。岐阜・池田町には一匹もいないのだ」と書いてあるのです。しばらくしたら講談社から10万円の振込みがありました。これは何でしょうかと問い合わせましたら、これは取材協力費だと言われました。こんなことでもお金儲けが出来ます。(笑)
 朝日新聞の「声」の欄で、こんなこともありました。これもいい話です。「新幹線には、ゴキブリが数百万匹無料で乗っている」という投書なのです。実に面白い投書です。新幹線に乗ったら、ゴキブリがたくさんいたというのです。それに対して、私はこれは面白いと思ってすぐに投書をしました。「新幹線のゴキブリ、池田町のゴキブリだんごで簡単に退治出来ますよ」。これを、私の名前で書くと企業ですからダメなので、池田町商工会指導員の名前で書きました。それが「声」の欄に載りました。その「声」の欄を見た読者が、池田町のゴキブリだんごで簡単に退治できると、また朝日新聞に投書をしてくれました。3回ほど載ったら、JRが驚き、当社に電話をかけてきました。「新幹線のゴキブリの退治の仕方を教えてください」とお話があったので、「そうですか、すぐ行きます」といって東京の品川の新幹線の車両区へ行きました。新幹線の車両は16両で100編成ぐらいで、たくさんあるように見えますが、あっちへ行ったりこっちへ来たりしてるだけなのです。
 一車両は、当社の製品40個で退治出来ますと言いました。一車両40個。そろばんを弾くと、なんと500万円の売り上げになります。JRから取引は「この業者を通じて買いたい」と言われました。この業者は、国鉄時代の子飼いの業者なのです。顔を見ただけで、「この人とだけは取引をしたくない」という顔をしていましたが、がまんをして商談をしていて最後に、この人がこう言いました。「この支払いは手形です」と言うのです。すかさず、私は「実は親の遺言で、手形の取引だけは、してはいけないと言われているのでお断りします」と帰ってしまいました。
 JRはどうしても欲しいのです。しばらくして、また「どうしてもこの製品が欲しい」と言ってきました。
 それで、JRが業者のここならどうかと言ってきたのが、なんと2000名の社員で売り上げ2000億円の上場企業の東邦薬品㈱という会社でした。こちらは無条件で「お願いします」と言いました。しばらくしたら「新幹線にゴキブリ退治の製品を売りつけた男がいる」と、聞かれた東邦薬品の社長さんが「おもしろい人物と聞いたから、1回会ってみたい。会ってから、取引を決めたい」と言ってこられました。それで私は、東京の東邦薬品㈱の松谷義範さんという社長さんに会いに行きました。
 この時、創業期でしたから、この勝負(取引)は、なんとしても勝たねばと。言ってみれば、古いのですが、村田英雄の歌った「王将」の心境です。"明日は、東京に出ていくからは、何が何でも勝たねばならぬ"勝つためにどうするかというと、入念な下調べをします。まず相手を知る、相手をよく知って、そして対するわけです。
 それにはいろいろあるのですが、その会社の歴史まで勉強をします。ただ、前日に分かったことは、「この勝負、私は負けた」ということです。なぜ負けたというと、膨大な資料や本を集めて調べました。その中で松谷社長さんは東京大学の西洋哲学科卒で、創業経営者でもあり、43年間で遅刻1回だけとありました。しかも、日本有数の経営者とわかったからです。
 この方に私が勝とうと思って勉強したのですが、でも負けたと思うのも、また良いのです。調べた後に負けたのですから、実にリラックスするのです。
 松谷社長さんに初めてお会いした時に、私は「実は、薬屋さんとだけとは取引をしたくない」と正直に言いました。なぜ、したくないかというと、代金の支払が手形なのです。そして返品が当たり前なのです。それから、売値もいいかげんで、小売業の中で一番厳しいのが薬屋さんなのです。だからそんなところとは取引したくないと、いきなり言いました。その松谷社長さんは当時、?日本医薬品卸連合会の会長さんだったのですが、その方に向かっての発言ですよ。「君はうちに来てよく言うな」と言われました。そのあと「うちは代金は現金で払う、返品はしない。だから取引してもらえんやろか」と言われました。当時、松谷社長さんは77歳でした。
 1年も経たない間に、「うちの会社でゴキブリキャップ事業部を作るから手伝え」と。「ゴキブリキャップ事業部」という名前は、上場企業にとって恥ずかしいと思われたのか「GC事業部」と名づけられました。そして、なんとその年に6000万円の売り上げがありました。
 いいですか、はじめから申し上げますと、ハガキ1枚で、「声」の欄を見て面白いと思ってやったこと、それが1年後には6000万円の売り上げになりました。これは、頭のいい人じゃ出来ない。だから皆さんは出来る。今、創業したいという人は頭が悪いよ。「頭のいい人はやらない、こんなつまらんことは」と思います。要は、動くということ、動くということは変化、進展につながります。

[ハガキ]
 セールスの方法には、訪問する方法と、電話と、ハガキがあります。訪問は、顔と顔を合わせるわけですから、20分か30分間、集中力を持ってやればいいのですが、あまり用もないのに何回も行くと、向こうから「来てくれるな」と言われます。
 電話では、私は28歳頃にイビデンの大阪支店で営業をしていました。本社からの指令で、「今日から2割増にしたから、売ってこい」と言われました。私は2割も安いなら簡単に買ってもらえると思って、電話でお客様に「今日から2割サービスだから買ってください」と言いましたら、支店長の目の前で断られました。それを見ていた支店長が、私に「君、電話商売はまだ10年早い」と叱かられました。そのくらい、電話は難しいのです。顔が見えないから。
 私が、皆さんにお勧めするのは、ハガキです。得意先を訪問した時、得意先がこちらにおみえになった時、あるいは、得意先の記事が出たとき、得意先に関する情報が出たとき、その都度ハガキを書きます。当社の実例で申し訳ありませんが、営業マンは、1日3枚書くということが会社との約束になっています。「訪問をたくさんしなくていい。とにかく3枚のハガキを書きなさい」。これを10年続けました。1日に3枚書いた結果どうなったかというと、下手な字も上手くなります。下手な文章もよくなりました。ポイントは「プラス言葉」を書くのです。明るい、楽しい、情熱的等の文字が心をプラスにさせます。だから、人間も良くなるのです。
 ぜひ、皆さんハガキを書いてください。ハガキに3感を入れるのです。感謝とか感動とか感心の感を入れる。当社のハガキは、私製で、裏面の下部に人生の教訓が書いてあります。文章を上部8行ぐらいで簡単に書けるようにしてあります。
 このように書きます。
 「毎度ありがとうございます。ご多忙の中、ご面談を賜わりまことにありがとうございました。感謝申し上げます。社員の皆様の挨拶がさわやかで感心を致しました。そして、伊藤様のとてもよいお話にも感動いたしました。伊藤様との再会が一層楽しみになりました。伊藤様の幸せを祈念しつつ・・・。ありがとうございました」
 これで、1行余分に書いて9行です。
 例えば嫌な仕入担当者に会ったときに、「嫌な仕入担当者様に」とは書けないですね。そこで「情熱家の伊藤様に」と書いたほうがいい、そうすると、「また来いよ」ということになります。
 ハガキは、書かせていただくという気持ちで、とにかく褒めて褒めて褒めるのです。3枚ほど続けて書いたら、相手に喜ばれます。ですから、ハガキを書いています。
 先日、東京へ行ったとき、当社の大切な得意先ですが、そこの社長が机の中から私の書いた輪ゴムでとめたハガキ20数枚を、ポンと置いてくれたのです。1枚のハガキでは信用はつきません。20数枚のハガキというのは、大きな信用です。もうこれで、この社長とは何を言っても付き合えるという気持ちです。もう少し分かりやすく言うと、得意先の社長が「タニサケさん、儲かっているので、そろそろ値下げやな」と言うと、「あっ社長、今日は実は値上げのお願いに来ました」そうすると、社長は笑ってしまって「お前は、ああ言えばこう言うやつや」といってお互いに大笑いして帰ってくるのです。だから面白いのです。ハガキを書くという平凡なことでも、コツコツとやり続けることによって、非凡になる。非凡とは優れていることです。
 みなさんは、大きい成果を求めていますけれど、もし、それがあれば、誰かがやっています。まず、それはないと思います。だから、これから5年とか10年先の目標に向かって、良いことを根気よくやる。偽善でもいい、良いことをやり続けていくことで結果がよくなってきます。悪いことをやっていれば、おのずと悪くなる。悪い結果が生まれる。だから今、鵜の目鷹の目で皆さんは大きいことを探していますが、そういったことはありません。やっぱり地道にコツコツやっているほうが成功に近づきます。
 ハガキを、今は商売のことで言いましたが、もっといいことがあるのです。わずか50円の切手で、全国の人達と交流が出来ます。慰めたり、励ましたりもできます。ハガキは下手な方ほど喜ばれるということがあります。下手な文章、下手な文字でいいのです。続けるとしぜんに文字が上手くなります。最初のハガキに2時間かかりました。1枚書くのに、今は4分間です。4分で切手を貼って出せるのです。ハガキは、自分の人生のひとつの武器になりました。

[親孝行]
 練習で両親にハガキを書いてみる。奥さんの両親にも同じように書く。両親にハガキを書くようになると、不思議と良いことが起こります。
 当社では、4月には親孝行月間というのがあって、全社員に1万円ずつ渡します。社員は1万円では足らないので、3万円か4万円自分のお金を追加して、お父さんやお母さんにサービスします。だいたい見ていると、3か月か4か月後にはお父さんやお母さんから、30万円から40万円ぐらい返ってくる。偉いものですね。
 親孝行の意味を兼ねてハガキを書くんです。出来るだけ短く、初めから上手く書こうとすると後で苦戦しますので、初めは下手でいい、初めは楽に書いてみる。親孝行のハガキは1度は書いてみるものです。ハガキは下手なほど喜ばれるという名言だけ覚えておいてください。そして「ハガキと言い訳は下手なほど喜ばれる」

[カバンは10kg]
 もう一つ具体的なことを言います。今日は講演会なのでこのカバンの中身は少し軽いのですが、だいたい10キロを持って歩いています。東京へ行くと、お客様が、「岐阜の寅さん」が来たと言われます。「はい、寅さんです」と言って笑っているのです。このカバンには、喜びのアイテムが30から40個入っているのです。人生をどう生きるかというカセットテープ、あるいはどう生きるかという冊子が入っています。また、業界の情報のコピーが入っています。もっとすごい物を見せると、トイレ掃除の道具まで入っています。汚いトイレでは嫌味になるのでやりませんが、ちょっと綺麗なトイレで汚い所がありますと、持参したサンドメッシュを使って磨くと、光ります。そうするとお客様はびっくりされます。一度でファンになっていただけます。
 要は、このカバンの中には、その日の自分が想定するドラマがあるのです。お客様の所へ行って、話が出て来たときに、「それはここに有ります」と、玉手箱のように出します。うちの会社の悪いセールスマンの例を言いますと、車で行くにもかかわらず、喜びのアイテムを1つか2つしか持っていかない。これしかない、と持っていきません。これではお客様は喜ばれません。どんな人に会うかもわからないのですから、10キロになるくらい、たくさん持っていきます。売り上げのよいセールスマンほど重いカバンを持っています。それだけお客様を喜ばせたいという思いです。これを私流にいうと、プラスワンの精神といいます。「会っていただいてありがとうございました」ということです。
 お客様との共通点は、経済のこともありますが、すべて人生です。涙の流れるようなことの書いたものを集めて、コピーをして配る、そして感動を与える。
 私の得意は料理ですから、今晩何にしようという女性がいたら、「NHKの料理番組でこんなメニューをやっていました」と、レシピを作って持っていきお見せします。
 次から次へとアイデアはあるわけです。とにかくネタをたくさん持っています。
 それは、保険屋さんでも言えます。会社で作られた保険のグラフか何かの資料を自分流に作ってくる勧誘員には「やる気」を感じます。写してでもいいから自分で作る。
 お客様に対しての思いがこのカバンになります。ぜひ、これから皆さんも重いカバンを持って、お客様が何を望んでいるかということを察知して用意をしてから訪問をしてください。
 思うだけじゃなく、手足を使って喜ばすことも具体的にお伝えします。お客様がもし新聞に掲載されていたら、その時に、「新聞に出てみえましたよね」と言葉だけではダメなんです。手足を使って人を喜ばすのですから、どうするかというと、出ていた新聞をコピーして持っていき、そして見せるわけです。そうして、「掲載されていましたね」と言う。そんなことを頭のいい人はやりません。だからいいんです。「手足を使って人を喜ばす」ということは、業界情報紙を持って、お客様の前にいくことでもできます。
 このように、あの手この手でお客様を喜ばせる。訪問の都度、喜びのアイテムを渡さなくてはいけない。
 普通の人の場合は、3度めや4度めになるとおそらく会ってもらえない。でも、私の場合は出張で東京に行って、「この近くまで来ました」と言えば、「先客があるけれど、早く来い」と言われる。そのぐらい信用が出来ました。常に、私と会うと何か貰える。人生の糧(かて)が貰える。このように、お客様に喜んで会っていただけて、良い情報が私もいただけるのです。

創業の心得 第二部 に続く >>>

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